『あかいめだまの さそり
ひろげたワシの つばさ
あをいめだまの こいぬ
ひかりのへびの とぐろ
オリオンはたかくうたひ
つゆとしもとを おとす♪』
「何それ?
黒ミサか何か?」
祭りに向かいながら上機嫌で口ずさんでいると、隣を歩いている蜜柑色の髪をしたエルフの娘からそんなツッコミが入った。
前にも同じようなことを言われた気がする。
いつだったかな。
一年前の…星まつりの夜だったかな。
『ん? 【星めぐりの歌】だが知らないのか?
だって、今日は天の川のお祭りだろう?
ぴったりじゃないか!』
「ふつう、たなばたさまの歌じゃないの?
やっぱりハカセは少しおかしいね」
『ええい、うるさい。
せっかく気分がいいと言うのに。
ちょっと上を見上げてみろ、天の川が見えるだろ。
それを挟んでひときわ明るく輝いているのが鷲座のアルタイル、そして琴座のベガだ。
これが彦星、織姫と呼ばれてるやつだな。
そして、ちょっと見渡してみようか、あれが夏の大三角形と言うやつで…聞いてるか? どれもツスクルの学びの杜、初等科で習ったはずだぞ。』
いかんいかん、どうにもこういった話になってしまうと熱が入り我を忘れる。
今日はそんなんでなしに、祭りを楽しみにきたのだ。
楽しい祭囃子が聞こえてくる。
お祭りの場所はもうすぐそこだ。
夜店の灯り、人々の話し声、少し遠くの虫の声…
全てが絶妙に溶け合い浮世を離れた空間を作り出す。
お祭り。これはひとつの魔法に違いないと私は考える。
少しの間…幸せになれる幻想魔法だ。
何の変哲のない焼きそばも屋台で食べると家で食べるより美味しいと感じるのも魔法のおかげだろう。
お祭りは楽しい。
だが、解けない魔法はない。
12時が来るとシンデレラの魔法がとけてしまうように、お祭りもまた終わりがある。
だからこそ楽しいのだろうよ。
それが当たり前なら楽しいとか感じないことだろう。
特別だから楽しいのだ。
そんなことを考えながらの帰り道。
祭囃子が段々と遠ざかり、虫の声が大合奏になってくる、何とも言えない寂しさ。
『ああ、今日は七夕のお祭りだったな…
織姫と彦星は再会を果たせただろうか。
きっと会えただろうな…』
その時、一粒の光が天に舞い昇り、ふと消えるのを私は見たような気がした。
ささ~のは~さーらさら~♪ の~き~ば~にゆーれーる~♪
おーほしさ~まーき~らきら~♪ きーんぎーんす~な~ご~♪
『願い事、叶うといいな…』
※みなさんは短冊に何を願いましたか?
出典1.「星めぐりの歌」 宮沢賢治
出典2.「たなばたさま」 権藤はなよ
ハカセ記