オルフェア地方 その果てで
ザマ峠での❝さんぞくウルフ❞達との会話の後、あることを思い立ったあさげはプクランド大陸へと向かっていた。
魔物とみなされる種族でも偏見を持つことなく絆を結べる人間達。
そんな人々のことを思い出したからだ。
あれからすぐに休みもせずに向かったのであたりはすっかりと暗くなってしまっていた。
虫の声が寂しく響く。
ここはオルフェア西地方の最果て「オルファの丘」
魔物達と心を通わせ、それを友とする心優しき者達。
「まものつかい」と呼ばれる者達のギルド本部、通称「まものハウス」がそこにはある。
ここへはかつて「アーネスト」が訪れており、「まものつかい」の称号を得ている。
その頃の記憶を頼りにここを訪れたわけだ。
ちなみに、ここの蔵書の1節にはこうある。
まものつかいに最も必要な能力のひとつはネーミングセンスである。
いい加減な名前をつけられた魔物達は夜な夜な枕を濡らしていると知れ。
まったくその通りであろう。
そんな大切なようなどうでもいいような記憶を思い出しながら、ハウスの入口へと向かう。
敷地の一角には爆弾岩のイワノフ博士と名乗る者がいる。
博士と言うからには色々なことに詳しそうではあるが、爆弾岩である。
単身で転がりながら世界各地を巡るのはつらい。
故に今回探している怪傑ウルフのような存在のことを尋ねるには酷というものであろう。
挨拶がてら念のために聞いてはみたが、案の定何も得ることはできなかった。
中で無尽蔵にエサが出てくる魔法の小袋を持つ魔物使いのレジェンド、メドウ婆さんに話を聞いてみる。
人狼族などの亜人。
それは魔物よりは我々に近い存在でまもの使いに従って行動することはないという。
リザードマンなどは友となるのに難しい話だとあさげは思うが、そういう何かしらのルールがあるのだろう。
だが、彼らも集落を築きそれなりの形で小さな社会を形成している。
その生活のためには人間やその他5種族と交流を持ち交易に近いことをしていることもあるという。
ただし、一般的に魔物とみなされているため、山賊や盗賊の真似事をしてしまうか、魔物に理解のある人間のいる場所に現れて密かに交流をしているかのどちらかが多いため、世間的には知られていないだけなのだそうだ。
この「まものハウス」もそのひとつであり、時々そういった亜人族が訪れては物々交換をしていったりするという。
それでも、「怪傑ウルフ」についての話は聞いたことがないと言う。
「また手がかりなしかのう…どうすればよかろうか…」
悩むあさげにメドウ婆は言う。
【メドウ】
これはのう、少し考え方を変えてみたらどうじゃ?
「怪傑ウルフ」がそもそも人なのか人狼などの亜人なのかすらはっきりしておらぬ、噂すら聞かないのに世界を駆け巡っても答えが見つかる可能性など少なかろう。
ここは待つのじゃよ。
一度レンドアへ行ってみたらよいと思うぞ。
果報は寝て待てじゃよ、ホッホッホ。
レンドア ここからの再出発
「そうか!
わかったのじゃ、我はまだスタートラインにも立っておらんかったというわけじゃな。
急に目が覚めた気分じゃ!!」
そうなのだ、レンドアの冒険者ギルドが管理する依頼の数々、その依頼の依頼人として「怪傑ウルフ」の名が時々見かけられる。
であれば、このギルドを使うことで何かが掴める可能性が高いというわけだ。
早速レンドアへと向かいたい気分だがもう夜も遅いため、まものハウスで一夜の宿を借り、翌朝レンドアへと向かう。
オルフェアの町から大陸間鉄道に乗って移動だ。
酒場が活発なのは夜である。
だからというわけではなかったが…レンドアの南地区、冒険者ギルドのある酒場に到着したのは…朝に出発したにもかかわらず日没後であった。
ここで依頼を取り扱っている人間に話を聞いてみてもよいが、おそらくはまともな情報が出てこないだろう。
正義のヒーローなどを自称する依頼人が直接来ているのであれば、最初にもう噂話など聞けているはずだからだ。
そう考えていたあさげが取った行動は…
まさに果報は寝て待てを体現するものだった。
自らが依頼人となって貼り紙をすることである。
情報求む!
巷で噂の正義のヒーロー「怪傑ウルフ」
どのような人物なのか一度会ってみたい。
かの人物の情報を持つ者はどんな些細なことでもよい、知らせてほしいのじゃ。
どんなことでも情報1つにつきゴールドストーン1つの報酬を出すゆえ、ご協力願う。
本人や関係者がこの貼り紙を見て会ってくれるという場合は、ギルドの者に手紙でも渡してくれれば指定の場所へとこちらから出向こう。
どうかよろしくお願い申す。
あさげ
(これでよし…じゃな、朗報があればよいのう…)
そう思いつつ、もしも「怪傑ウルフ」が本当にいたとしても、誰かが生み出した架空のヒーローであり、その名を使って誰かが依頼を出しているのだとしても、いずれハッキリするであろう。
怪傑ウルフを見つけることが目的ではない、実在しなかったなら実在しなかったと答えが見つかることが重要なのだ。
きっとハカセもそうやって数々のことに挑み、考え、答えを見つけながら一歩一歩前へと進んでいったのであろうから。
全てが無駄足になることはないのである。
あさげはそう考えながら酒場を後にし、アズランへの帰路を辿った。